「です」と「ます」の大きな違い

前回の投稿で、歌の中では「です」と「ます」の使用に明らかな差があることがわかりました。もう一度繰り返すと、「ます」が登場するのは1910年代ですが、「です」が本格的に出てくるのは1970年代だと指摘しました。では、どうしてこのような違いができたのでしょうか。それを今回、説明してみたいと思います。

今売られている辞書や敬語の本は、両者を大体次のように説明します。
例えば菊池康人『敬語』(1997)では、
「ます」は動詞の連用形につき、「です」はそれ以外のもの(名詞・形容動詞・形容詞)などにつくもので、敬度はほぼ同じ。
という風に説明されます。

ただし、両者の成り立ちには大きな差があったのです。
井上史雄は『敬語はこわくない』(1999)で、古代は尊敬語と謙譲語のみであったとして、平安時代に「侍り」「候」とう丁寧語ができ、「ます」は室町時代以降に次のようにしてできたと言います。

「参る」→「まらする」→「まっする」→「まする」→「ます」
つまり、「ます」は本来敬語(主に謙譲語)であった言葉からできた丁寧語であり、また江戸時代以前に成立した言葉だったのです。

他方、「です」はというと、これはかなり新しく、その成立は幕末以降のことになります。そしてその語源はというと「でございます」。これが省略されたのが「です」で、この省略形を使うのはあまり丁寧ではなく、断定的すぎる、と言った批判が常に付き纏っていました。

つまり、「です」はぞんざいな言い方だと思われていたわけです。「です」なんて言葉、絶対に使ってはダメですよ。それならばちゃんと「でございます」を使いなさい。というように教育された家庭もあったと想像します。

その影響でしょうか。長い間「です」は一応丁寧語とされていたものの、女子や子供ができるだけ使わない方がいい少し下品な敬語として扱われました。

日本では、歌はある種の雅語で作られてきたので、「です」がそこに入るまでには時間がかかったのだと思います。

1977年に発表された「カルメン’77」で私は衝撃を受けました。前にも紹介したように、この歌い出しが「私の名前はカルメンです。もちろんあだ名に決まってます」だったからです。その時の私は「えらいはっきりとものを言わはる女性なんやなあ」と感じたことを今でもはっきりと覚えています。その違和感はこうしたことに由来するのかもしれません。

ということで、要は50年前くらいまでは、「です」と「ます」には違いがあり、それが歌の上にも表れていた、ということです。逆に言えば、歌の分析をしたからこそ、その違いの痕跡を見つけることができたのだとも思っています。

本日もありがとうございました。
また引き続きよろしくお願いします。




18件の返信

  1. rain lily より:

    今回も大変勉強になりました!😊
    「です」と「ます」がいつ頃できた言葉か、全く存じませんでした。

    なんとなく、目上の方に「です」と言うのは違和感と言いますか、ちょっと失礼な気がして、就職の面接や医師の診察などでは「でございます」を使うことが多いです。先生がお書きになったように、「です」は「少し下品な敬語」だったのですね。(「下品な敬語」、、この表現も想像を掻き立てるようなニュアンスがあって良いですね。)

    次回も楽しみにしております😊

    • 勉強になったとのこと、嬉しいです!!!

      こうした言葉遣いのようなものは、女性の方が厳しかったのかもしれませんね。
      そして世間も敏感だったような気が致します。
      私など何も知らずに使っておりました。

      そのエピソードも参考になります。
      ありがとうございました!!!

      次回以降もよろしくお願いいたします。

    • そういえば、軍隊では「であります」でしたね。
      これも「です」を避けようとしたのでしょうか?
      特に目上の人に「であります」をよく使っているように思うのですが・・・

      • rain lily より:

        そうかもしれませんね!
        ですが、「であります」は違和感がありすぎて、使ったことがないのでございます。😊

        • ハハハハ、rose lilyさん面白いでございます☺️
          今では「ございます」の方が違和感ありますね。
          なんだか、一種の「役割語」のようになりつつありますね。
          こちらが勉強になりました☺️

  2. rain lily より:

    ピンク・レディの「カルメン ’77」、懐かしい〜😊❤️

    • よかったです!!!
      当時の人気は凄まじかったですね☺️
      私も歌を集めていて、一曲一曲、懐かしく感じておりました☺️

      • rain lily より:

        はい、ピンクレディは凄まじい人気でしたね!私の周りの子供達は皆、踊りも歌も真似をしておりました。

        あ、当時は私も子供でしたが、ピンクレディの真似をするようなタイプではありませんでした。気恥ずかしくて。

        昭和の曲、懐かしいですね♪😊

        • 子供にとって、ピンクレディーは衝撃でした!!!
          かなり大人の女性って感じで・・・「Sexy」でしたよね。
          それまでの「色気」タイプとは違うような・・・
          うちの周りの女の子、特に積極的なタイプの女の子はみんな真似していましたね☺️
          静かなタイプの子は周りでそれを見て、応援するような感じだったように思います☺️

          この機会に、次回は「色気」と「Sexy」の違いについて感じたことを書いてみようかな・・・

          • rain lily より:

            そうですね!それまでの、じめッとした色気ではなく、カラッとした「男性に媚びない」タイプの色気、sexyさが、女性にもウケたのだと思います。

            女の子にとっては「カッコイイ」タイプのお姉さん2人組だったと思います。😊

            なんと!「色気」と「sexy」の違いですか!楽しみにしております❣️😊

          • ありがとうございます。
            次回は主観的になりますが、「色気」と「Sexy」の違いについて考えてみたいと思います。
            違うと思ったり、こんな点もあると思ったら、積極的にコメントいただけるとありがたいです!!!
            よろしくお願いいたしますm(_ _)m

      • rain lily より:

        それにしても、どうやって160曲もの「です・ます」歌を集められたの
        でしょうか? AIに集めてもらったのでしょうか?!😊

    • rain lily より:

      「役割語」とは、「特定の人物を想起させる言葉遣い」なのですね!
      なるほど、勉強になりました😊☀️

      • 比較的最近定義された言葉です。
        大阪大学名誉教授の金水敏先生が付けられた名前です。
        代表的なものは、「〜じゃ」などが老人や博士を表すといったものになります。
        もしご興味があれば、本も出てますので、ご一読を。

        • rain lily より:

          ご解説をありがとうございます😊あまり聞いたことがない言葉でしたので、ググりました。

          そちらの本も面白そうですね!岩井先生のご著書をひと通り読ませていただいたら、手に取ってみます。

  3. rain lily より:

    先生の主観的な「色気」と「sexy」の違いに関するご考察、興味津々でございます🙇‍♀️

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