時々、学生から「先生、私、研究者の能力があるでしょうか?」とか、「研究者に向いていますか?」といった質問をされます。自分の将来が不安なのでしょう。よくわかります。若いですよね。
この問いは、一見、難しい質問のように思えます。ですが答えは簡単なんです。これまでの経験から、私にはその最低条件がある程度わかってきたからです。
私は一応、工学修士号と文学修士号、そして博士(学術)号を取得し、その後長年研究に従事してきました。ですから、理系と文系ともに必要な能力というか、資質というものがわかっているという自負があります。
その過程を通して、本当に研究者にとって必要なのは、次の三つの能力だと信じてやみません。
偶然ですが、それらの能力は、すべて「想」がつく言葉でした。以下に述べる三つの能力を兼ね備えていないと研究者にはなれないと断言していいと思います。
一つは「想像力」。これは実際には経験をしていないことや、現実には存在しないことを思い浮かべる能力です。まだわからない未知のものを想像できなければ、新しい研究はできませんから、これは非常に大切な能力です。子供の頃から一番鍛えておかなければならない能力かもしれませんね。急にはつかない能力ですので。
二つ目は「発想力」。これは物事を考え出す能力のことです。また新しい方法や内容などを考え出すことでもあります。これはセンスもありますが、後からでも鍛えることができるような気がしますし、成長とともに少しずつ鍛えていくべき能力なのかもしれません。
最後は「構想力」。これは、これからしようとする物事について、その内容や規模、そして実現方法などを考え、骨組みをまとめる能力のことです。いくら想像力や発想力が豊かであっても、それを実現したり、表現したりできなければ論文や本は書けません。これにはある程度の経験値が必要です。時には失敗もしながら、繰り返しフィードバックしていかないと、この能力はつきません。一人ではつかないのもこの能力の特徴でしょう。ですから大学などの研究機関が必要なのです。
以上三つのうち、まず想像力のない人は、すぐに他の職業についた方がいいでしょう。想像力がある人で発想力がある人は、この職業に向いていると思います。ただし、構想力がつかないと研究者として成功はしません。レポートや書類、論文や本などが書けませんからね。
最初の学生さんの問いに戻りましょう。その学生さんがもし想像力を持っていなかったり、それが著しく乏しい時は、いくら学力が優秀でも私は「否」と答えるでしょう。ですが、逆に想像力が最低限あり、発想力も育成できそうであれば、「可能性はある」と答えます。あとはその人の構想力をいかに伸ばせるかだけが課題です。これがその学生との間で育成できそうなら「十分能力はある」と答えるべきだと思います。
極言すれば、教師が唯一学生に対してできることは、「構想力を伸ばすこと」だけのような気がします。特に大学や大学院教育ではこの「構想力を伸ばすこと」しかできません。そのほかの能力はそれまでの素地がないともう大学に入ってからでは遅いと思いますし、それほど伸びも期待できないというのが現実だと思います。
以上、今まで多くの大学生や大学院生を見てきて感じたことでした。
今回も読んでくださってありがとうございました。
6件の返信
研究者になるために最低必要な3つの「想」のご説明、大変わかりやすかったです!
私自身は研究者になろうと思ったことはありませんが、そう考えている人が身近にいたら、これを是非教えてあげたいと思います。😊
ありがとうございます☺️
もし研究者を志されている人がおられたら、教えてあげてください。
少しは参考になると思いますので☺️
はじめまして、大学院生です。ブログを読ませていただき、自分には構想力がないと感じます。どれくらい失敗した力がつくものでしょうか。力をつけるのに何かおすすめの方法があれば知りたいです。
はじめまして。ご質問ありがとうございます。構想力が不足しているだけなら、大丈夫です。絶対に伸ばせますから。
唯一の方法はとにかく書くことです。そして査読付きの論文に投稿して、査読者のコメントをもらうことが一番近道です。これを繰り返していけば、自然と構想力がつきます。しっかりとフィードバックすることが大事ですが。そこは指導教官とも話し合って、どうしたらいいのか、しっかりと考え、査読に通るように修正していくのがいいと思います。指導教官との間でそうしたことを繰り返しても構想力はついてきます。
何度くらいというのは人によりますが、10回くらいそうした経験をすれば、十分構想力はつくのではないでしょうか?
私の場合は、元々理系で、ある程度論文の型というか骨格がわかっていたので、あとは肉付けするだけでした。ですから他の人よりは楽にできたような気がしました。もし文系の方だけで教育されてくると、理系よりも時間がかかりますよね。
参考になったでしょうか???
もっと詳しく聞きたいとか、他にも聞きたいことがあれば、どんどん質問してくださいね。
では、また。
丁寧に教えてくださり、ありがとうございます。査読10本、それはすごい量です。気が遠くなりますが参考します。
いえいえ、一本一本を大切にしていく方が大事ですから、まずは一本、しっかりと書いてください。
その内、知らない間に10本くらいになっていて、その時に自分に構成力がついてきたなと実感できると思いますので、それを楽しみにしながら頑張ってください!!!
また何か質問があれば、遠慮なくしてくださいね!!!
待ってます!!!